日々、考える。日常。

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【インタビュー】笠間市在住のファゴット奏者が回すエアろくろ……それは果たして笠間焼なのだろうか!?

音楽の都、ウィーンで長年修行を積んだ後に、ニューヨークに渡り、オーケストラの首席奏者として活躍してきた男がいる。ファゴット奏者の蛯澤亮(えびさわ・りょう)氏だ。

 

約2年前に地元である茨城県笠間市に華麗にUターンし、精力的に活動している。中心となるのは、なんともキャッチーな名前のコンサートシリーズ「えびコン」だ。「生のクラシックコンサートが少ない地域でも、身近に音楽に触れられる」と毎回好評のようすである。

 

今回は、12月13日・14日に迫った「えびコン vol.8 冬のおしゃべりコンサート」の直前に、意気込みをインタビューしてみた。

 

……なお、筆者が蛯澤氏と知り合ったのは15歳前後であるため、この文章は完全に幼なじみへのクリスマスプレゼントなのである。にじみ出てしまう内輪感をご容赦いただきたい。筆者のムチャぶりにも、どんどん応えてくれた蛯澤氏のユーモラスなキャラクターを、コンサート前にぜひ味わっていただければ幸いである。

 

【幼なじみとしての思い出を、さっそく内輪感たっぷりで語る2人】

 

― 久しぶりですよね~、こうやって真面目に話す感じは。まあ、夜中にLINEのスタンプで遊んだりしてますけどね(笑)

 

「初めて会ったときお互い10代だったもんね! 萌ちゃんは小さいのにマシンガントークで、変わったヤツだな~って(笑)」

 

― ハッ! 当時から私変人だったんだっ!(動揺を隠せない筆者)

 

「でもさ、オーボエは当時から上手だったよね、正直感心してた」

 

― いやいや、私はもう音楽はやめちゃったけどね~。でも、茨城のジュニアオケで一緒に吹いたのは、ホントに楽しい経験でした!

 

「茨城って吹奏楽は盛んだけど、実際小さな頃からオケできるって、あんまりなかったもんねぇ。特にあの頃はね」

 

― あの、ちょっと、お願いがあるんですけど……

 

「えっ何!? いきなり何?」

 

― 「エアろくろ」、回してもらえます? インタビュー記事によくあるんですよ、ろくろ回すポーズ。こんな感じで……(画像検索を見せながら)

 

「は? 俺が笠間在住だから? 特産品が『笠間焼』だから?(戸惑いながらポーズをとる)」

 

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― あっ、いい感じッス。IT業界でめっちゃ稼いでる人っぽい感じするわぁ~。

 

「例えがよくわからないけど……じゃ、真面目な話もしたいかなっ♪」

 

― どうぞっ! では、質問していきますねっ!

 

【世界で活躍できる実力があるのに、どうして茨城に戻ってきたのか?】

 

― ウィーンで大学院まで通って研究して、その後ニューヨークのオーケストラで首席奏者として働いて。まだまだ世界的に活躍できると思うんです。なんで突然茨城に戻ってきたんだろうって、ずっと不思議に思ってました。結構私ビックリしてたんですよ(笑)

 

「まあ当然のことなんだけど……国によって、コミュニケーションの仕方や歴史、文化は違うって肌で実感したのね。長年住んでるうちに、日本の良さがしみじみ分かってきたんだよね。で、自分のルーツである茨城や笠間を見直したんです。地元の方々に向けて演奏していきたい、楽しんでもらいたい、と思ったのがきっかけです」

 

― とってもポジティブなUターンだったんですね! 海外での活動で得た貴重な経験について、ぜひ教えてください。

 

「ウィーンには長く住んだからね、数え切れないほどの経験をしましたよ! 昔からの憧れだったウィーンフィルの方々と共演したり、厳しいレッスンで音楽のスタイルをいちから考え直したりね。師匠から頂いたのは『たくさんの引き出しを自分で作りなさい。モーツァルトを演奏するときには、頭の中でモーツァルトの引き出しをすぐに開けなさい。そのために、いつも準備していなさい』という言葉。さまざまなオペラを演奏することが多いウィーンならではの教訓だと思うんです」

 

― 引き出しって大事ですよね。作曲家によって演奏へのアプローチはまったく変わってきますし。あらゆる仕事にも通じる教訓だと思います。アメリカではどうでしたか?

 

「まずは雰囲気の違いかな。『おおっ! 新しい国なんだなー!』って。チェコからアメリカに渡ったドヴォルザークみたいな気分だったような気もするなあ、まさに『新世界』(笑) どこに行っても、星条旗がなびいていたのを覚えてます。カーネギーホールで演奏したときも、舞台の一角に星条旗が飾られてたぐらいなんだよ! ヨーロッパでも、あんなに国旗を飾っている風景は見たことがなかったな~」

 

― やっぱり新しい国だからこそ、民衆の気持ちも強いのかもしれませんね。それから茨城に戻ってきて、普段は何をして過ごしているんですか?

 

「実家の農業を手伝ったりとか、普通にしてる(笑) もちろん、演奏活動や、楽器の練習やリード作りの合間にだけどね。俺、音楽家っぽくないでしょ?」

 

― ほえー! そういえば稲刈りの写真とか結構アップしてますよね、超ナチュラルに(笑) 世間的には「音楽家=セレブ」って思われがちだけど、全然そんなことないんですよねー。その中でも、蛯澤さんのライフスタイルはとっても新しいと思います!

 

「でしょっ? じゃあ、そろそろ、演奏会の告知がしたいな~♪」

 

― あっ、すっかり忘れてました、すいません(テヘペロでごまかす筆者)。

 

【えびコンvol.8「冬のおしゃべりコンサート」への意気込み】

 

― 今回は、オーボエクラリネットファゴットという、管楽器3本のアンサンブル「トリオ・ダンシュ」での演奏会ですが、この編成ならではの魅力ってありますか?

 

「葦から作る『リード』を振動させて音を出す、ということが3つの楽器の共通項です。でも、それぞれ個性はまったく違って。オーボエは華やかでセクシー、クラリネットはユーモラスでかわいくて。……なんといっても、俺担当のファゴットは、素朴で包み込むような音が魅力! 客席を、優しすぎる俺の愛情で包んでみせるゼッ☆(ドヤ顔で)」

 

― は、はあ……イケメンだし、イケると思いますよ。が、がんばってください(白目で)。なんだかんだやっぱり、「俺が俺が!」というよりも、3つの楽器の個性的な音色がミックスされてくってとこが面白いんでしょうね。

 

「そうそう、個性のブレンドが楽しめるんです。今年の夏に仲良くなったばかりのメンバーなんだけど、気も合うしバランスがとれてますよ。オーボエの若木さんは紅一点で、とにかくキュート! 休憩時間には男2人で癒されちゃってます(笑) もちろん演奏の腕も確かで、音楽全体をリードしてくれるホントにありがたい存在です」

 

― おおっ、バンド内恋愛みたいで青春っぽいですねっ!

 

「練習後に毎回飲んでて、めちゃくちゃ楽しいんだよね~。クラリネットの本濱君はガチで『いいヤツ』! 気遣いができる男で、いつも笑わせてくれて。僕が一番年上なのに、2人に常にイジられてるってバランスなの(笑) でも、それが自然で居心地がいいなあって感じてます」

 

― へー、とってもフレンドリーな雰囲気なんですねえ。今回、コンサートのプログラム選びに工夫したことはありますか?

 

「やっぱり専門的に勉強してきたクラシックは、しっかりとお客様にお届けしたい。だけど、お客様の立場になって考えてみると、音楽でほっとリラックスしてほしいんです。今回は多彩なクラシックの合間に、日本ならではの曲を挟んで、楽しんでいただきたいと考えています」

 

― なるほど。海外生活が長いからこそ、日本の曲にかける想いもひとしおなんですね。

 

「お客様からはよく『ファゴットって、日本の曲に合う音色なんですね!』ってお褒めいただくんです。合間の『おしゃべり』も毎回ご好評いただいているんですよ。『この作曲家は、日本の歴史上の偉人と実は同い年だった!』とか、ウケるんだよね〜」

 

― おもしろそう! 日本史と比較することで、遠いヨーロッパがより身近に感じられますよね。

 

「これはホントに僕が伝えたいことでね。ウィーンでは、日本と違ってコンサートの『場』が堅苦しいものではないんです。お客様も、みんなとにかく喋る、喋る(笑) 休憩時間の終わりを告げるベルだって、何度も鳴らさないと、みんなロビーから戻ってこないんですよ。だってさ、食べて、飲んでるんだもん(笑)」

 

—  「立ち飲み屋かよっ!」 ってツッコミたくなりますね。めっちゃザワザワしてそう!

 

「あれはスゴいよ〜(笑) 一種のサロンみたいな空間なんだろうね。着飾ってコンサートに出かけるのも楽しみのひとつなんです。キッチリした服装で行かなきゃってことはなくって。女性はセクシーなドレスで来てたりしますよ、年齢問わずにねっ☆  男性も、とってもカラフルなジャケットやネクタイでおしゃれしてくるのが当たり前なんです」

 

— 叶姉妹林家ペーさんみたいなお客様もいるんでしょうか。それはちょっと、いろんな意味で見てみたいですね(笑) でも、本当はそうあるべきなんだと思います。出会いの場にもなりそうですし……日本人は世間体みたいなモノにとらわれすぎなのかもしれませんね。

 

「僕のコンサートでは、基本的にもっとリラックスしていただいてOKなんですよ。だって、『音楽=娯楽』だもん。そのために『おしゃべりコンサート』って形にしています。田舎でも、より身近に音楽を楽しんでいただける環境を、これからも作っていきたいんです」

 

— えびコンという「場」を茨城に創りだすことで、新しくて、しかも楽しい交流空間が生まれているのは、本当に素晴らしいことですね!

 

【コンサートと投票日がカブってしまった今回、蛯澤氏が語る日本の民主主義とは?】

 

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― 最近、ご自身のブログで「選挙の後はえびコンで!」ってPRされてましたよね。すごく良いこと言っているなあ、と思って。若者の投票率が低いことも問題視されている中で、日本の若者を見て感じることってありますか?

 

「歴史や宗教をしっかり知らないことかな。それだと、外国人と深く話せないから。日本人は無宗教だという意見も多いけど、神道と仏教、2つの宗教が生活にじっくりと根付いている。それは、日本の懐の深さだと思うんです」

 

― 初詣やクリスマス、そして冠婚葬祭……日本の宗教観ってカオス状態ですけど、歴史的な経緯があって、今こうなっていると。それを寛大に受け入れてきたことが、日本人だからこその良さだな、ってことに気づかれた、と。

 

「そうなんです。そんなことを色々学んだ上で、これからの日本を考えれば、自分の意見はおのずとできてくるはず。新聞やテレビ、誰かの言うことをうのみにしちゃう人って多いでしょ? 自分の芯を持つことが大事なんじゃないかな。普段からそんな姿勢で暮らしていれば、迷わず選挙にも行けますよね」

 

― 「自分の芯」、まさに私もいつも考えていることです。未来を考えていくことが重要ですよね、ウチらアラサーだけど、まだまだ若いんだし(笑)

 

「若い、若いよ〜、まだまだイケるって(笑) ……でね、『投票したい政治家がいない』『政治家のレベルが低い』なんて声も、僕は逆に良いことだと思っていて。そう感じたなら、ちゃんと意見を伝えて、選挙でしっかり審判を下せばいい。それが成熟した民主主義だと僕は思います。ヨーロッパで学んだ大事なことは『自分の意見をしっかり持ち、伝えること』。どうせ……って諦めてたり、政治家や官僚を恨んだりしたって、社会は変わらないんですから!」

 

― まさにその通りですね! まずは選挙に行かなければ、何も変わらない。社会に不満を持つ人こそ投票に行くべきなんですよね。

 

「自分の選挙区の候補者の考えを、事務所を訪ねたり、メールしたりして直接訊くこともできますしね」

 

― 特に今は、ネット選挙解禁になりましたし、政治家のSNSも重要なコミュニケーションツールですもんね。交流することが以前より簡単になってます。政治家って、けっして遠い存在じゃないんですよね。

 

「そうやって政治家にちゃんとモノを伝えて、集まった意見から、その政治家が考えるべき事柄だって増えていくと思います。若者が意見をして、何より選挙に行くことで、お年寄りだけでなく若者にも目が向けられるんですよね。自分たち世代のためにも、それから、次の世代に住みやすい日本を届けるためにも、選挙に行きたいですね!」

 

― で、投票の後は、もちろん「えびコン」でリラックス、と!

 

「その通り! 誰にでも楽しめるコンサートです。お気軽にぜひお越しください!」

 

【蛯澤氏、茨城への深すぎる愛情を語る。】

 

― 先日、「茨城県は魅力最下位」ってことで話題になりましたよね。私もめちゃくちゃアツい記事を書いちゃってましたが……地元、茨城に対する愛情を、ぜひお聞かせください。

 

「やっぱり、アピールが足らないと思いますね。みんな地元の良さを知らないから、誇りや愛着を持てない。茨城は古代から『常世の国』、つまり理想郷だと言われていました。僕自身も郷土史はまだまだ勉強中ですが、過去のえびコンでは『笠間の民話』と『常陸国風土記』の朗読に合わせて演奏したこともあります。反響はとても大きいですね。朗読と音楽のコラボレーションを通じて、日本語の美しさも改めて感じています」

 

― 茨城の歴史も、えびコンを通して広めているんですね! 私も趣味で現代詩を書いたり読んだりしますが、昔の和歌って響きも含めて美しいですもんね。

 

「四季折々を感じていく暮らしだって、やっぱり日本独特の良さですもんね。もちろん日本の自然も、後世に残していかなければならないものですよね。今回のコンサートの会場も自然豊かでね〜。写真、撮ってきましたよ! ぜひ見てください! 14日の会場となる『工芸の丘クラフトホール』ですっ」

 

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― おおっ、工芸の丘の写真ですね。最後の建物がクラフトホールか〜! アートな建物ですね! そして、夕焼けや、青空に月。遠くに広がる山並みのシルエット。茨城の自然はやっぱり良いなあ。

 

「でしょ? 冬には冬の良さがありますしね。ぜひ、風邪をひかれぬよう暖かい格好でいらしていただければと思います。出演者一同、心よりお待ちしております」

 

― ご成功お祈りしていますっ!

 

「ていうか、萌ちゃんも来ればいいのに。たまには帰ってきなよ、茨城!」

 

― いや、遠いよ! ……でも、このアツすぎるプロジェクト、いつか正式に何かで取材させていただきたいな、と心から思っています。今日は楽しいお話をありがとうございました。

 

「こちらこそ、ありがとうございました。ブログTwitterでも日々発信していますので、チェックしてくださると嬉しいです。これからも茨城で精一杯活動していくので、ぜひ応援してください!」

 

【アツいプロジェクト、えびコン!これからも茨城県民はぜひ応援してあげてほしい】

 

インタビューは以上である。やはり海外生活が長いからこそ、日本や地元への愛が深まったのだと感じた。私自身、数年前ウィーン滞在中に彼に街を案内してもらい、貴重な経験ができた。やはり「普段はあまり見えないけれど大切なもの」というのは、身の周りにたくさん転がっているのだ。

 

実力派でありながら、あえて茨城で演奏活動を続ける蛯澤氏にしかできない、芯のある演奏。ぜひ一度生で聴きに行っていただきたい。チケットのご予約は、蛯澤氏に電話かメールすれば完了である。ebifg(at)hotmail.co.jpまで、(at)をアットマークに変えて、ぜひお申し込みいただきたい。きっとろくろを回しながら予約を待っていてくれるはずだ。

 

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【関連動画】

追記として、茨城新聞に取材された際の動画をご紹介する。特に2:17からのお客様の素直な感想と笑顔には、きっと本人も喜んでいるだろう。これこそが彼のやりたいことなのだ、と、改めて心が動いた。

ぜひ、味わい深いファゴットの音色と、蛯澤氏による軽妙な「おしゃべり」をこの動画で堪能してから、来週末は投票の帰り道に、コンサートに出かけていただきたい。


市役所でプレコンサート 「かさま国際音楽アカデミー2014」PR - YouTube

 

(※以下は本当に野暮な追記になります)

ライター修行中の今年春頃、何かとエビちゃん(蛯澤氏)とはLINEで議論することが多かったです。特に、政治について。正直なところ、彼と私はだいぶ意見が違うのですが、日本においてのよりよい民主主義を望む点では、熱意が共通していることが今回改めてわかりました。思想がまったく違っても、人間的に信頼できる人と話し合ってみれば、新しい発見もありますよね。そんな友人を古くから持っていることは私の財産だと思います。

当時、「じゃあどんなライターになりたいの? 自分が今応援してる政治家をひたすら宣伝するライターになりたいの?」と訊かれ、「いや、それは多分違うかな……。例えば、エビちゃんがどんな思いで茨城に帰ってきたのか、そしてこれから何をしようとしているのか。そんなことを、私は書きたいと思う」と答えたのを覚えています。彼はそれを聞いて「いいね! ぜひ書いてほしい!」と言ってくれました。

だから、今回これを書けて、私は心から嬉しく思っています。